1962.1.8(月) 一大決心も何処へやら・・・遇うのが怖い
学校へ着いたのは10時20分頃。・・・ 28番へ行ってみると案の定休講、 アーケードへ行ってみると憲法も休講で、全くはぐらかされてしまった。12時時頃、110番からアーケードを見ていると、小柳が見えたので久闊を叙し、一緒に協組の方へ行くと、丁度書籍部の前で Wistaria に会った、 実に清楚な感じだった。・・・・
ノート売り場で武藤に会い、3人でホールに行きタンメンを食べ、小柳と別れ2人で図書館で少し勉強した。 2限が始まってから600番の方へ行って様子を見たところ、休講らしくがらんとしていた。 30分程して図書館に戻り、本を取って出ようとしたところ、2~3列後の反対側の席に彼女がいるではないか。 しかも幾分笑みを含んだその表情は、確かに僕を認めていたようだった。 全くこれほど驚いたことは嘗て無かったろう。 走るように逃げ出し、本館に入ってしまってからもまだ足ががくがく震え、口は訳のわからないことをきりもなく喋り続けていた。・・・・・・
・・・・・・・・・
ともかく今日は初日から寿命の縮まる思いをさせられたが、あの時の彼女の顔つきは、考えれば考えるほど不可解である。 あの笑いは軽蔑しているのか、好意なのか、それとも自己満足なのか、全く見当がつかない。 しかし、どう考えても僕を不快に思っているようなところはなかった・・・・
では一体どうして返事をくれなかったのか、となるとまたまた判らなくなってくる。 結局一大決心をして書いた手紙も何の役にも立たなかったことになる。
何としても恨めしいのは、はっきりしてくれない彼女の態度である。
やはらかに 積もれる雪に 熱る頬を 埋むるごとき 恋してみたし ・・啄木
(注: "一大決心" が聞いて呆れると言うしかない。 我ながら何とも不甲斐ない体たらくであった。 仮に彼女が、私からの手紙を好意的に受け取ったとしても、それだけでいきなり返事を出すのは躊躇するのが当然である。 それを全て悲観的に解釈して逃げ出すだけなら未だしも、自分のことを棚にあげて "彼女がはっきりしてくれないのが恨めしい" などと思うにいたっては、すでに先が見えていた。
要するに私は空想の世界に留まったまま、一人相撲を取っていただけだったのだろう。
小学校時代、教室で一度も手を挙げて意見を言ったことが無く、質問もしたことが無かったため、通信簿に "この消極的性格のままだと、将来損をする・・・" と書かれたことがあったが、4年~6年までクラス担任だった岡部弘道先生には私の弱点がよく見えていたに違いない。 )